これはいいトリビュート。
何よりも中森明菜作品に対するリスペクト精神と、オリジナルの世界観をいかにして換骨奪胎して自らのものとして取り込んだ上で、大胆にアウトプットするかといったアイディアに満ちあふれている。
この手のアルバムになると、楽曲毎にある程度の出来不出来、もしくは得手不得手の差が現れるものなのだけれども、今作に限ってはクリエイターとシンガーとのやる気が空回りせず、高い完成度を誇る中森明菜作品をものにすることに見事に成功している。
無論楽曲間の小粒大粒の差はあれど、この聴き応えがあれば、それすらも気にならないというもの。「これはイマイチ」とガッカリさせられるものが存在しないことが奇跡的ではないかと。
以下、どの曲にも聴き所があるので、全曲を簡単にレビュー。
玉井詩織「スローモーション」
本作唯一の現役アイドルによる歌唱。アイドルであることを武器にして、オリジナルリスペクトのアレンジに透明感ある世界を映し出している。
城田優「少女A」
男性ボーカルであることと、トラックをゼロベースで作り上げていることで、原曲が持っていた鋭さに対して別角度から光を当てているかのよう。
土岐麻子「セカンド・ラブ」
オリジナルのはかなさを大人の気怠さに置き換えてしっとりと歌い上げている。オリジナルのアレンジではやや重くなるところを、適度にライトにリアレンジ。
GYUBIN「トワイライト-夕暮れ便り-」
K-POPボーカリストによるカヴァー。本作の並びではやや異端であるようにも見受けられるが、実にオーソドックスに世界を再構築している。
一青窈「北ウイング」
100%の一青窈節に置き換えてのプレゼン。この人ならばここまでやらなければ嘘だろうと思わせる説得力は、本作において強力なインパクトを持って受けいれられた。
玉置浩二「サザン・ウインド」
作曲者本人によるセルフカヴァー。その時点で反則。もとい、リアルタイムではあまり感じていなかったのだが、こうやって新たに触れると、確かに氏のメロディであることよ、と納得させられる。
Ado「十戒 (1984)」
本作の中ではオーソドックスなカヴァーの一つ。飛ぶ鳥を落とす勢いの現代のシンガーが中森明菜をカヴァーすること自体に意味があるのだと思い知らされる。
鈴木雅之「飾りじゃないのよ涙は」
個人的に一発で打ちのめされたアレンジ。氏のワールドとパワー全開。譜割りもがらっと置き換え、J-POP界随一のボーカリストによって実にイカしたダンスナンバーとして提供されている。
CHEMISTRY「ミ・アモーレ」
原曲とは異なるベクトルでのスケール感を持ったビッグバンドアレンジに乗って、2人のボーカルが、実に丁寧に歌い重ねられている。
JUJU「DESIRE -情熱-」
カヴァーならお手のものによる彼女のボーカル。原曲重視のアレンジとの相乗効果で、オリジナルが持つロック感と現代のボーカリストによる共存が、安定感を持った意図で組み立てられている。
East Of Eden「TANGO NOIR」
メンバーによるヴァイオリンが縦横無尽に駆け巡る作風に。タンゴのサウンドを代表するバンドネオンが、まるでジプシー・ヴァイオリンに置き換えられているかのよう。バンドサウンドとしても楽しめる。
中島美嘉「難破船」
彼女の持つウェットなボーカルスタイルが、原曲のイメージをほうふつさせながらも、この絶望的な失恋歌を、中森明菜が持っていた救いのなさとは異なる、どこか一縷の望みを持つ世界観にしている様は見事。
星屑スキャット「TATOO」
スッキリとシャープなダンストラックに置き換えたカヴァー。なるほど確かにこの曲はオシャレな側面も持ち合わせていた、と再発見させてもらえる。本アルバムの中で最も現代的なアレンジとも言える。
このような具合に、聴き所満載であります。この5月は本作をえらく愛聴しておりました。ノスタルジックでありながらも、リアル。このギャップを完全に埋めにきた、素晴らしいトリビュートアルバムです。
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