音波の薄皮

その日に聴いた音楽をメモするだけの非実用的な日記

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SOFTLY / 山下達郎 (2022 FLAC)

今年、高崎まで観に行った氏のコンサートで口にしていた「明るい曲での構成を」とは、このアルバムの内容も指していたのではないかと今さらになって気がついてみる。

アルバム前半がとにかく明るく、つとめて明るく進行していく。もちろん氏も私も年齢こそ差はあれども、歳は取りました。明るく楽しいことが、ポジティヴのみから発生するとは限らないことも重々承知しております。酸いも甘いもかみ分けてこそ初めて発生する明るさがあるのです。

人生などと言うものはアップダウンを伴って進んで行くもの。渦中にあっては気付きにくいものなのだけれども、下っていく一方の人生では決してない。落ちるだけ落ちたならば、ごくごくわずかでも浮上する何かは訪れてくれるはず。それが長続きするか一瞬のことか、大きな事かごくごく小さな事かの差はあれど。

浮上した時の明るさをいかにして自分の中で長生きさせるか。そうするための知恵がつくことが加齢と言うことではないだろうか。人生に灯りがともった際にやってくる、振り返ることの出来る暗い過去があってこその明るさ。「清濁併せ呑む」と言う表現を好むようになってきた自分の今が、まさにそう言った時ではないかと。

氏の音楽人生におけるアップダウンは広く語られているもの。私のそれは私の中でのみ語られるもの。その差は大きなものではあるけれども、己の中で展開されるその複雑さに貴賤はないはず。

スコンとトンネルから抜けた時の開けた気分と、この作品を聴くことで得ることの出来る抜け感には恐らく近いものがあるはず。

これも2022年、今年にリリースされた作品だったのだな。2022年は様々に抜け感があった一年であったように思えてきますよ。ほら、これがようやくトンネルから抜けた人間の一状態なのです。

SOFTLY (通常盤)