数年前まではテンシュテットのように全編にわたって苦悩が横たわるかのようなマーラーを好んでいたのだけれども、自分の心境の変化を伴ってのことなのか、ここ数年のコロナ禍における閉塞的な世間に対するアンチテーゼが自分の中で働いてなのか、この録音のように根底に歓喜が宿るマーラー第5番の方がより好ましいと感じられるようになっていた。
きっかけはマーラーマニアな友人が「石橋を叩いて渡るような演奏」と評したヴァンスカの澄んだマーラーであったり、また、マーラーに対する印象を大きく変えてくれたストレートで力強いバーンスタインのマーラーであったりと言った、美しく、もしくは明るさのあるそれに触れたからなのかもしれない。
ロトの指揮によるこれは、マーラー第5番そのものが持つ影は影として、そこに光を当てることによって、より姿形を浮かび上がらせようとしているかのように捉えることが出来た。