音波の薄皮

その日に聴いた音楽をメモするだけの非実用的な日記

当コンテンツではアフィリエイト広告を利用しています

井上陽水

帰りの電車で読んでいた文章に「十三夜」とあり、連想ゲームで井上陽水の「神無月にかこまれて」が流れ出した。

改めていうまでもなく、陽水の歴史を俯瞰するにあたって『GOLDEN BEST』は選曲も音質も十二分に練り込まれたコンパイルではあるけれども、個人的な思い入れが強い初期の陽水を楽しむには、たまに物足りなさを覚えてしまうわけで。

ということで、駅に降り立つなり、聴きたい初期の曲を網羅すべく2枚のベストアルバムをレンタルし、自分なりにコンパイル。順不同。

闇夜の国から
東へ西へ
つめたい部屋の世界地図
いつのまにか少女は
神無月にかこまれて
白い一日
ロンドン急行
夏まつり
断絶
紙飛行機
御免
夕立
夜のバス

躁鬱のギャップ内に生まれる発電量の凄まじさと、いつ糸が切れてしまうかと不安にさせられるほどの線の細さ、そして独りよがりにならないポピュラリティを感じさせるこの時代の陽水が、ここで命を絶たなかったのは何よりもありがたい。その後の「気まぐれ名曲メイカー」ぶりがあるからこそ、余計にそう感じる次第。

それまで専門用語でしかなかったメンタル面でのラベリングが一般的なタームになるに従って、自分の中に巣くい、そして抑えることが赦されない(と錯覚する)内面的摩擦を表現するアーティストが、リスナーサイドにおける受容(不安の最中にもまれているはずの彼らも、そのラベリングによって一方で安堵を覚えている)と相まってごく普通に陽の目を見ているという二律背反な現象が発生することしきりの昨今ではあるけれども、前述のポピュラリティを持って生まれた井上陽水の特異性は、今の時代であるからこそのエッジ、今現在巷に多くあふれている異端者としてのアーティストをものともしない重さを持って訴えてくるように思える次第。「作られた」詞が「鑑賞に堪えうる」詞として作用している所に、上澄みだけを選りすぐったような文学的端整さがあるんだろう。

うん。これと『GOLDEN BEST』との組み合わせで、自分としてはまず満足できるかな。陽水ほどのキャリアになってくると、いくらよくできたベスト盤でも漏れてしまう選曲というのはあるわけだしね。