音波の薄皮

その日に聴いた音楽をメモするだけの非実用的な日記

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COVERSⅡ -Sora Amamiya favorite songs- / 雨宮天 (2023 96/24)

雨宮天、昭和歌謡カヴァーシリーズ第2作。

楽曲のアレンジメント、トラックが持つニュアンスはそのままに、声の質感をオリジナル歌唱に寄せる思い切りの良さ。おそらく第1作ではその点においてまだ手探りや迷いの要素があったのだろう。2作目となる今作では、完全に思いきり、突き抜けたのだろうことがよく聴いて取れる。

その分、楽曲間におけるその質感の振れ幅は大きい。最初のうちはアルバム全体としての構成、テンポの緩さがあり、ボーカルの統一感にややぼやけがあるようにも感じられたのだが、再生回数を重ねていくうちにその印象は明らかに誤解であったと思うに至った。

今作の特徴としては、ミディアムからバラードにかけての楽曲において、ボーカルをより丁寧に作り込んでいることが挙げられる。その質感をオリジナル楽曲に重ね合わせ、極めて真面目に向き合い、曲の世界観を壊さず、かつ、自らのカラーに染め上げ直すことに取り組んだのだろう。そのネクストレベルとも言える努力と苦心が、高い次元でしっかりと結実している。

昭和歌謡のカヴァーは、ややすると時代錯誤なパロディにも陥りかねない。しかしここにおいてそうさせていない理由は、楽曲と向かい合う真面目な姿勢に裏打ちされてる。何よりもこれら楽曲への愛が強く滲んでおり、聴き手である自分にも真摯に伝わってくる。

雨宮天は昭和歌謡を歌う企画リサイタルにおいて、このワークスを「布教活動」の一環としている。そこではこれら楽曲の持つ世界観の独自性、力を今のリスナーに伝えようと躍起になっていのではないかと思えるほどのものもあった。そのためにはオリジナルの歌唱を自らのフィルターを通す、自分に憑依させて伝えるシャーマンになることもいとわない強い意志があった。

今回の選曲はその思いの強さを現すのにふさわしい楽曲を配したのだろう。派手さや華やかさよりも、あの時代が持っていた感情の凹凸、表裏、そして機微を今によみがえらせるための手法として選んだとも思えてくる。

昭和歌謡の持つニュアンスと、アイドル歌謡の持つ華やかさやその裏にある影を描き出そうと取り組んだ好作に今回も結びついていることで、さらにまた次の展開、シリーズ次作への期待も高まる。まだ引き出しはあり、より深く掘り下げられるだろう期待が高まるばかり。

このシリーズを3作目まで制作できるのであれば、昭和歌謡カヴァーとしての一つのあり方を提示した好例として後々に残っていく存在となるに違いない。

COVERSⅡ -Sora Amamiya favorite songs- (特典なし)