音波の薄皮

その日に聴いた音楽をメモするだけの非実用的な日記

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憧憬都市 City Pop Covers / ジャンク フジヤマ (2024 48/24 Amazon Music Unlimited)

ジャンク フジヤマ初の全曲カヴァーアルバム。これまでもカヴァーを数多く、積極的に展開していたこの人のことなので、意外と言えば意外。楽曲単位でのカヴァーがメインだったのか。

これまでも気が向いたときなどに聴いてきた彼のヴォーカルなのだけれども、このようにアルバム単位で、しかもシティ・ポップを表題に掲げた作品がリリースされ、聴く機会が現れるとは。やっていそうでやってなかったのだね。

アレンジにどのような手を加えるか、オリジナリティはあるか、選曲負けしてないか、などなど聴く前に危惧していた項目は多かったものの、蓋を開けてみれば実に安心出来るシティ・ポップカヴァー。

アレンジは原曲の持つ雰囲気を重視し、そこから少々引き算をしてシンプルな2020年代仕様にしている感あり。予算面の理由なのか音楽性が重なってしまうことを避けてなのか、この当時のサウンドに積極的に取り入れられていたホーンセクションの導入は控えめ。その代わりベーシックなバンド演奏が燻し銀的に光る演奏が楽しめる。適度に小技が利いたアレンジと演奏、とでも言いますか。ピリリと光るファンクネスが随所に少々と言った感。

ヴォーカルに関してはジャンク フジヤマならではの少しアクがある、バタ臭くなるギリギリ一歩手前の歌で楽しませてくれる。この方のヴォーカルは決して抜けのよさがあるとは言い切れず、それが過去の山下達郎カヴァーにおいても微妙なもっさり感に繋がっているように聞こえていたのだけれども、今回の選曲はこの歌唱スタイルになかなかマッチしているのではないかと。

バタ臭いと書いたけれども、シティ・ポップの裏側にあるのは当時の洋楽志向がこじれ、かつ高じて日本独自のポップス文化を構築した偶発的な結果だと考えているので、その点においてジャンク フジヤマのボーカルスタイルがここにハマるのは当然の帰結と言えば当然の帰結。アルバムのタイトル通りの、この当時のサウンドに対する「憧憬」があってこその本作なのだろうから。

総じて聴きやすく、原曲やこの当時の空気へのリスペクト精神にあふれ、その上で見事にジャンク フジヤマならではの手腕が振るわれた作品ではないかと。

ボーカリストのカラーと楽曲への愛情、そして多少の差はあれどもオリジナリティが反映されているシティ・ポップカヴァーアルバムとしては、田中裕梨、DEEN、そしてこのジャンク フジヤマのそれが万人に勧められる、そしてシティ・ポップの入口として機能する作品群ではないかとも思われた次第。

憧憬都市 City Pop Covers(特典なし)