音波の薄皮

その日に聴いた音楽をメモするだけの非実用的な日記

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パピヨン-ボヘミアン・ラプソディ- / 氷川きよし (2020 FLAC)

先日聴いたSpotifyの公式プレイリスト『This Is 氷川きよし』の中身が、想像以上にポップスに振れていたので驚いた。この方は演歌歌手であったはずなのですが。Spotifyと言うプラットフォームが若者向けであるからして、そこへの忖度なのですか?と勘ぐってしまったほど。

とは言え、そのような自分も氷川きよしのポップス歌手としてのポジションは高く買っていたのでウハウハ状態で聴いていましたが。

そして演歌畑のポップスには珍曲妙曲を数多く生み出す土壌があるのもまた事実なのだよね。氷川きよしもまた例外にあらずではないかと。

それを検証すべく氷川きよしの「ポップスアルバム」を2枚急遽レンタルした次第。

聴きます。まず2020年リリースの本作。えーと…アルバムタイトルとラストトラックを見ただけでクラクラしてきます。出オチに近いものがあります。

1曲目は重ためのロックチューンでスタートします。この人のポップス歌唱の特徴はつとめてポップスを歌うことに専念すること。演歌ならではのコブシやしゃくれを完全に封じ込めています。このアルバムに対する決意表明ですよ。それでも、サビが終わるごとに入るボーカルエフェクトにはどのような意図があるのかと。

2曲目もロックですね。SEにある笑い声の意図がやはり分かりません。何か形を打ち破ろうとするエネルギーの意なのか。まぁ、タイトルがタイトルですからね。そう言うことなのでしょう。

3曲目はEDMライクな曲調。完全に「演歌の氷川きよし」ファンをふるい落としにかかってますよ。ロック~ロック~EDMと繋いできましたからね。ライトなEDM調でこれはこれで氷川きよしとのアンバランスさが面白い。演歌歌手が演歌を排除したジャンルレスで来ております。相当に勝負に出ています。

4曲目もこれまたロックに戻ってきます。不思議と聴いていて安心出来るのは、作りが歌謡ロックテイストだからでしょう。ややデカダン気取りで歌う氷川きよしがなかなか様になっています。

続いては、来た!突き抜けた氷川きよし。ある意味において超絶有名なアニソンでロックでハイエナジーな一曲。これが入っているかいないかで、アルバムに芯が通るか火が入るか否かが大きく分かれてきますよ。見事にここまでの流れを回収しに来ました。比較的ロック寄りで繋いだのはここへ至るための伏線だったのかと思えるほど。

6曲目はフォルクローレテイストですね。前曲との凄まじいまでの落差で攻めてきました。ボーカルもがらりとここで表情を変え、エモーショナルに歌い上げます。そのエモさが古典的歌謡曲の路線に陥らないギリギリのラインで最新式。見方を変えると氷川きよし以降に出てきた「若手演歌歌手」のポップス路線を高みから見下ろすかのような堂々とした振る舞いにも見えてきます。やはりこの人は何枚も上手。

7曲目はピアノが印象的なミドルチューン。落ち着いて聴かせてきます。ファルセットも堂に入ったもの。ミドルチューンでありながらも、タイトル通りのラヴソングをやはり感情豊かに歌い上げています。

8曲目はピアノとウッドベースの響きが印象的なジャジーな曲。氷川きよしとこの手のバリトンヴォイスとの組み合わせには意外性があります。この人は張った声に特徴がありますからね。大人の色香が感じられます。

9曲目はここまでの2曲の流れを引き継ぎ、ピアノからスタートします。そして、ようやくここに来て直球のJ-POPですね。ポップス中のポップス。ベタなメロディや展開をしっかりと噛みしめるように歌い上げていきます。この盤石な歌唱の安定感が、聴く上でも抜群の安心感へと繋がって行きます。ラストで爆発させるように聴かせるボーカルワークもよきかな。

次には、どことなく70年代フォーク路線の匂いすら感じさせるメロディを持った楽曲を置いてきました。この手の楽曲にありがちなクサさも存分に漂わせながらも、そのドツボにはまり込まないセンスはやはり現代の歌い手なのだと感じさせます。

11曲目は80年代テイストのアダルトコンテンポラリーな雰囲気ですね。スラップベースが特徴的な楽曲。サビでのブルージーなハモリもこのアルバムの中では新機軸。こちらも歌謡曲に転ぶ瀬戸際でグッとこらえているボーカルが味わえます。きよしさん、大人ね。

そして打ち込みポップが来ましたよ。ボーカルはここでもアダルト調。サビで一気に力強さを感じさせるその歌いわけが見事ですね。バックダンサーを従えて歌っていてもおかしくないような、スケールの大きさまでをも感じさせます。

13曲目。事実上このトラックがファイナルと見てよいのでしょう。大団円的な雰囲気を感じさせる楽曲です。楽曲そのものも氷川きよしのボーカルも、コンサートのラストに持ってきてもしっかりと収まってくれるような明るさと懐の広さを携えています。

さて。ある意味アンコール的楽曲をここに収録したと勝手に思っています。ワールドワイドな稀代の名曲を日本語詞でカヴァーですよ。どうするんだよ、これ。迂闊な事をやれば滑稽さとの紙一重な戦いになるよ。

…あら。ドラマティックに歌い広げるではありませんか。そう来なくてはこの曲は収まりませんよね。一人舞台を見事に歌いきりました。先に述べた安心感が導き出す、聴き手の身構えを必要とさせない歌いっぷり。素直にシャッポを脱ぎます。

聴き通しました。もっと飽きるかと思っていたのに、一気に最後まで聴かされてしまった。やはり氷川きよしの看板を背負っている人はダテではない。アルバムはジャンルや時代を超えての、ポップスの総合パビリオンと言った趣きでした。

最後に。ボーカルのミックスが現代のロック、ポップスのそれとは大きく異なりますね。とにかくボーカルを立たせることに命をかけているかのようなミックス。加えて演歌畑のポップスにありがちなアレンジの安っぽさのかけらもない。しっかりとトラックを作り込んでいます。

総合判定。

やっぱり氷川きよしはとんでもない歌い手でした。

最後に自分用の種明かし。Wikipediaからクレジットを紐解いたところ。

あー!なるほど、そう言うことか!

納得させて頂きました。

ja.wikipedia.org

【Bタイプ】パピヨン-ボヘミアン・ラプソディ-