1987年にレコードでもなくカセットでもなくCDのみとして発売された本コンピレーション。2024年、SACDとしてリマスタ再発。
フォーマットを変えてのリリースは初めてとなるこのコンピレーション。ステレオサウンドからのまさかのSACDリリースと聞いて、一瞬ためらったもののやはり購入せざるを得なかった。さすがにこの音源は自分に切り拓かれた新たな音楽探究の道、その第一歩でしたからね。フィジカルメディアと訣別したとは言え、手元に置かないわけにはいかなかった。
細かいことはさておき、とにかく音質。
解像度の明瞭化はもちろんのこと、何よりもその空気感の豊潤さが耳にリッチに迫り来る。
音の鮮度がこれまでリリースされてきたどのリマスタ音源よりもハイレゾ音源よりも、段違いのリアリティをもって訴えかけてくる。
音像は新たなディメンションを付け加えたのではないかと言うほどの明確なテクスチャを持ち、音の一つ一つが細かく刻み込まれるかのように録音されていたことが、今になって判明するほどの立体的な鮮烈さ。
デジタル録音とされていた音源に関しても、そのトラックダウンマスターはアナログテープだったとのことで、その影響もあってかアルバム後半に収録されている、時代的に古い楽曲たちに香り立つそのふくよかな音の立体感には、思わずのけぞるほどのものがあった。それほどまでに音が迫って部屋から飛びださん勢いで花開いていった。
もう40年も前になる楽曲、「RAINBOW RAINBOW」のこれまでは繊細に聞こえてきたベースソロが潤いを持ち、この時代ならではのアイディアあふれる小室哲哉のシーケンスとの融合がより一層耳に心地よく。
「8月の長い夜」に至っては『CHILDHOOD'S END』収録曲の全体的な線の細さが嘘だったかのように、アナログライクな音を持って耳に優しく豊かに、そして適切なファットさを持って届けられる。
今回のSACD化にあたっては、楽曲単位でリマスタが施され、アルバム全体としての統一感はあえて持たせなかったとのこと。そのことが逆に楽曲各々が持つ録音の時代背景やそれらに存在する聴かせどころを色鮮やかに描き出してくれていた。
考えてみればこのアルバムのコンセプトそのものが『ヒストリーCD』、それまでのTM NETWORK楽曲の名刺的なカタログだったわけで、楽曲毎の個性を尊重したとも本リマスタは、初リリースから37年の時を経てようやくその存在に対しての正解を得たとも言える。
1980年代のアナログからデジタルへの過渡期に作られ録音されていった楽曲たちが、一度アナログの段階にまで立ち返ってSACD化されたことは、TM NETWORKのみならず、この時代のサウンドを現代にアーカイヴする際の作業的な大きなヒントを含んでいるようにも思える。
それほどまでに衝撃的かつ全面的にウェルカムなリマスタでありました。間違いなくこれは決定盤ですね。