音波の薄皮

その日に聴いた音楽をメモするだけの非実用的な日記

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kocorono 完全盤 / bloodthirsty butchers (2010)

(転載)

さようなら、吉村秀樹。

bloodthirsty butchersは、僕のさまよえる20代から30代までをしっかりと支え、このちっぽけな魂をこの世にかろうじてグリップしてくれた大切な存在でした。特に吉村秀樹の、冷酷な鋼板とも喩えられるそのギターは、僕の中の何かを震えたたせ、そして夢中にさせたものです。

友は彼のギターをまるでジミヘンのようだと語りました。僕にはジミヘンの良さは分かりません。しかし吉村秀樹という一ギタリストの音は、全くもって何物にも代えがたい、唯一無二という言葉があまりにも陳腐に聞こえてしまう、もう、魂の音としかいいようのないものでありました。鋼鉄の礫、彼がストロークを繰り出した瞬間に、僕の中の矮小なそれもストロークされたのです。

そして、詞。どこまでも静かに、どこまでも絶望的に、そしてどこまでも澄んでいくその言葉は、夏が作り出す強烈な影の中へと溶け出してしまいそうになる僕の体を、ぐっとここにあろうとこらえさせてくれるものでした。僕は人の一年を語りきった『kocorono』に、自分を重ねていた世代の一人です。特に、その夏の景色に。

残念ながら、自分が歳を取る、すなわち魂がすり減るとともに吉村秀樹が引っ張りあげて作り出す音像からは遠くなってしまいましたが、それでも訃報を聞いた瞬間に、自分の中であの時の魂の残滓が静かに、そして明瞭に終わるのを感じました。文字通り魂が抜けてしまったのです。その抜け殻のような状態で、今、これを書いています。

果たして今日、安易な追悼の思いで彼らの音源に触れることができるのかわからない状態ではありますが、それでも心の整理がついたら、もしくは無理やりにでも整理をしようとしてその音源を再生する時はやってくると思います。

最後に、神様。あなたは時折、絶対にやってはならないことをやってしまう。なぜ彼をこんなにも早くに連れて行った。

さようなら、吉村秀樹。安らかにお眠りください。ありがとう。本当にありがとう。