音波の薄皮

その日に聴いた音楽をメモするだけの非実用的な日記

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11thアルバム 記憶の図書館 / 坂本真綾 (2023 48/24)

一本芯を通した時の、坂本真綾は強い。

コンセプチュアルなテーマを下敷きに展開されている今作も、そのタイトルの通り『記憶の図書館』と言うストーリー、ワードを軸に楽曲世界が繰り広げられているためか、どれだけ幅広い曲調の作品を取り揃えてきても、必ずその中心、重力を発する一点に戻って来ることができると言う確信をもって届けられたのだろう。

楽曲を提示するにおいて、その世界の中で何が起きようとも、聴き手の持つ予定調和、安心を裏切るかのようなハプニングがあろうとも、坂本真綾の掌中からは外れない、外さない自信があったのだろうと想像するに難くない。

60分弱の世界、風呂敷を大きく広げてみせ、ラストトラックに至るまでで全ての伏線を回収、収斂される世界観は、人はどこへ行こうとも必ず戻ってくる場所がある、まずは行ってみようと、歩み出す人の背中を押してくれるかのような、力の源ともなるエネルギーを発しているかのように思えるほど。

今作における創造の源泉となったのは、自らの育児体験を経てのものだとインタビュー記事にて知った。人は人を生み出し、その人となりを形成する過程においてまた、自分自身も形成されていくのだと。

このように、世界はノンフィクションから生み出された。

音楽において「フィクションの世界を紡ぐ」ことに長けているのは、坂本真綾の土台に声優と言う生業があったからこそではないかと思うのだ。そこに加えて、人生における経験と堆積を反映させることで、自身の作品をより高いものへと押し上げているのではないかと。

とうの昔に声優と言う枠組みから飛び出した音楽活動を行っている坂本真綾を、今さらその枠組みで語るつもりはもちろん毛頭ない。それでも今現在、多くの声優がアーティスティックであると称する音楽活動に力を入れる中、そのパイオニア的ポジションにある坂本真綾の存在は、そこから遙かに離れた地点、もはや北極星として立脚するかのごとくとなっていることは間違いない。

想像と言うフィクションの世界に身を置きながらも、それを自らの手で創り出し、多くの音楽クリエイターを巻き込む時点で、それをアーティスティックな創造と言わずして何と言えばよいか。

創造を貫き通す坂本真綾は、やはり強い。

そのことを実感させられる作品として仕上がっているのが、今作の最大の特徴なのだろう。

11thアルバム 記憶の図書館 [通常盤] [CD]