辛抱たまらずに買ってしまった。TM NETWORK『CAROL』ステレオサウンドによるハイブリッドSACD、2024年盤。
仕事から帰ってくるなり、到着したディスクをいそいそとセットして再生。出てきた音に口をぽかーんと開けながらも集中して聴くこと一時間。
凄いものがやって来てしまった。
1988年のオリジナルCD盤、2014年の96/24フォーマットハイレゾ版、そして2024年のこのハイブリッドSACD盤。この音源に関しては本当に様々なフォーマットでリアルタイムに聴いてきたのだけれども、ここにきてようやく決定盤と言いきれるものが登場した。
まずは圧倒的な音場感。使い古された言葉を使えば「臨場感」とも言える。鳴らされている全ての音、ボーカル、コーラス。それら一つ一つが緻密に重ねられ、その全てが存在感を持って耳に届けられる。
過去のフォーマットではドラムのアタックに象徴される、インパクトとともにある音作りだと捉えていた音達が、実は間接音をたっぷりと携えたものであったことに気付かされる。それこそがスタジオ録音でありながらも、臨場感という言葉を用いた理由。楽器の背中にいる音までもがしっかりと聞こえてくる。
生楽器を多用し、かつアナログライクに作り上げていると思われがちな作品でもあるけれども、実のところは小室哲哉のシンセの音色選びについてもそのこだわりがしっかりと聴いて取れる。
それまでのTM NETWORK作品とは大きく異なり、表に出てくる楽器としては決して大きく扱われてはいないのだけれども、アルバム全体として通して捉えた際にやはり小室哲哉の存在が大きく浮かび上がってくるのは、そのさり気ない主張が実際には相当に強力であることの証左であろう。
そこに気付かされる、気付くように録音が引き出されているのが、今回のハイブリッドSACDフォーマット最大の特徴。とにかく「音」に耳が引き込まれる。トラックの層からこんこんと湧いて出てくるような音の数々。それでいながら楽器が引いた際にはしっかりとその弱音や静音が聴き取れる作りにもなっていたのだと、今の今になって知らされる。
そう考えてみると、小室哲哉がこの作品の録音を迎えるにあたって事前に頭の中で鳴らしていたであろう音のレイヤーやテクスチャが、ようやくこの2024年盤でしっかりと再生、再現される、そのような日の目を見たのではないかとも思えるほど。
同時に本作は実に丁寧に、かつ正攻法に、ノーギミックで緻密に作り込まれていたのだと、今さらになって気付かされるほどのその音像の細やかさの再現にも圧倒された。
リリースから時間を重ねるにつれ名盤としての名声を得ているこの作品。その名盤たらしめている理由が、至って真面目に、真面目過ぎるほどに細かに作り込まれた音の堆積にあったのだと再発見させてくれ、そしてその記録を余すところなく提示してくれるフォーマットとしてここにリリースされたことに感謝の念を覚えてやまない。
かくして一枚を聴き終える頃には集中し過ぎてぐったりしてしまったほどに、とにかく耳を休める隙がない、「1988年のフォーマット」の限界から解き放たれた音の洪水に飲み込まれていたのだった。
以下余談。
メインオーディオで聴いた後に、今度はヘッドホンで聴いた。
積み重ねられた音の記録体に再び触れては、やはりその全てにおける極上のワークスに酔いしれるばかり。これは本当に凄まじいものが提供されてしまった。