音波の薄皮

その日に聴いた音楽をメモするだけの非実用的な日記

当コンテンツではアフィリエイト広告を利用しています

ドヴォルザーク:ピアノ協奏曲 / ピエール=ロラン・エマール, ニコラウス・アーノンクール, ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 (2003 44.1/16)

エマールの演奏は先に聴いたベートーヴェンとはまた趣を大きく異にする。ドヴォルザークが描いた旋律の意図が明瞭に見えてくるかのような色鮮やかさ。柔和さ加減や繊細さを持ち、それていて音の輪郭も全く損なわれていない。それらを広い懐に有させていることこそが、楽曲の持つカラーを際立たせているかのよう。

ここでのドヴォルザークは歯切れよく、端正かつきらびやかに、なのだな。

そして鮮やかな光を持ち、ピアノをソフトに包み込むように奏でられるオーケストラの響きはレコーディングの特性によるものなのだろうか、それともやはりアーノンクールの手腕によるものなのだろうか。過剰な湿度は抑えつつも、色艶は十分。

ここにあるのは色で塗り固められた郷愁感ではなく、夕焼けに滲み立つグラデーションに見て取れる、心にわずかなさざ波が湧き上がるかのごとく、淡く遠くに結ばれる像を眺めているような演奏。爽やかな郷愁と言った、ある意味相反する情感が同居しているかのよう。典型ではなく、実にパーソナルなものが導き出される感覚とでも言えばよいか。人が「美しい」と思える時に持っているであろう個の光。

ドヴォルザークとは、かくも美しいものであったか。

ドヴォルザーク:ピアノ協奏曲