音波の薄皮

その日に聴いた音楽をメモするだけの非実用的な日記

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マーラー:交響曲第5番 / グスターボ・ドゥダメル, ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 (2018/2022 96/24)

近年のそれとしてはリヴァイヴァル的解釈とも受け取れるこの演奏に、心のど真ん中を直球で射抜かれた次第。音にたっぷりとした説得力のタメを持たせながらも、それに溺れることのない重量級の推進力で曲を動かしていった感あり。「終わってくるな、まだ続いてくれ」と、決して叶うことのない祈りを込めつつ聴いた。

先日読み解いたカタログ的ムック本によると、どうやら最近ではマーラーの録音物においては機動力に勝る現代的な演奏が好まれる風潮があるらしい。しかしベルリン・フィルにはベルリン・フィルでしか出来ない、ここだからこそ可能にしている歴史のヘヴィネスとタフネスがあるのだと冒頭から強く納得させられた。

この作品には昏さの深淵と一縷の望みである光との落差をいかにして描き出すかと言った命題があると常々考えているのだが、その転換のスイッチを自在に切り替えながら楽曲が進行していく様は、聴く上で求める愉悦や快楽への道標を克明に刻んでくれているように自分には感じられた。

その漆黒と微光とのコントラストの間に、逸れることのない集中力を持って、マーラー独特の影が明確に浮かび上がる。譜面に記された音には全て意味があり、作曲者の意図がそこに宿るのだと、当然の事を当然のように実感させられる演奏。それを実際の音として描き直すドゥダメルの手腕もまた、洗練されながらもこの作品の独自性を決して安易な解釈でやり過ごすことのない強い芯に基づいているのだと感じ入った。

グスタフ・マーラー : 交響曲全集 (第1~10番) / ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 (Gustav Mahler : Symphonie 1-10 / BERLINER PHILHARMONIKER) [10CD+4Blu-ray] [Import] [日本語帯・解説付] [Live]