あまり聴き進めることのできていない手持ちのヴァイオリン協奏曲の音源を、と言うことであれこれつまんでみたのだけれども、どうも自分の耳にしっくり来ない。オケが眠いかヴァイオリンの音そのものが自分の好みではない、耳が喜ばないと言った音源ばかりに遭遇する。つまんだそれらは確かに有名な音源であるのだけれども、どうにもこうにも。
ここしばらく華のあるピアノ協奏曲ばかりを聴いていたので、もう一方の華であるヴァイオリン協奏曲への自分なりの基準点や審美眼がないのだろう、などとも思ってしまうほど。
そこで何とはなしにアバド&ベルリン・フィルの60枚ボックスセットの中に何かお宝は眠っていないだろうかと思い、探してみたところこいつがいた。一度も聴いておらず、またその存在も頭の片隅にすらもいなかった音源。
ブラームスの協奏曲系にはわりと苦手意識があったのだけれども、これは冒頭の美しいオーケストラからしてつかみは十分。第一楽章がやたらと長いのはこの作曲家ならではなのだけれども、その長さを微塵も感じさせない、
音の一つ一つが明瞭かつ流麗。技巧的にも音そのものやエゴ的にエッジが尖っている部分がなく、実に詩的に聴かせてくれる。音量バランス的にヴァイオリンがやや小さいかとも思わせるのだけれども、ホールでのオーケストラとのブレンド具合を考えると、ある意味これも正しい録音の解釈かと。それもまたヴァイオリンが存在として無闇に主張しないことに繋がっているのだろうとも。
ブラームスの響きが持つ独特の音楽的歴史観と言ったものが、丁寧に解釈されて演奏として耳に届けられるのもまたよろしく。これがカラヤンの時代の音源だと自分には厳しいかもしれない。アバドならではの軽妙なバランスの良さが自分には心地よいのだろうと。楽曲の持つ明るいトーンとアバドの明るさが有機的に結びついている。
ギル・シャハムの演奏の素晴らしさはもちろんのこと、アバド率いるベルリン・フィルの響きもまた、やはり自分の好物系の音色なのだと理解する丑三つ時でありました。