誰が名付けたか「歌怪獣」島津亜矢。かつてNHKの歌番組で見事な歌謡浪曲を披露していたあの方が、まさかここまでポップミュージックカヴァーアルバムの数を重ねるとは、一体誰があの時予想出来ただろうか。と言うことで、好評「Singer」シリーズ第9弾。足かけ15年で9枚目ですって。
内容はもう盤石の島津節。すなわち曲によってボーカルの色合いを大きく変え、オリジナル楽曲に大きく寄せながらもその歌は他ならぬ彼女自身といった、とにかくぶっとい芯が通りまくっている。
洋邦新旧問わず、どのような観点で選曲されたかはともかくも、片っ端から歌いこなして自分のモノにしているあたりは、ありとあらゆる楽曲を食べ尽くす歌怪獣であるがゆえんか。初めてこのシリーズに耳を通す方は、その大食らいっぷりに仰天するに違いない。この方にとっては毎度のことですがね。
その中で個人的な白眉は「朝日楼(朝日のあたる家)」。名だたる数々のシンガーが取り組んでいる、実に挑戦しがいのあるこの曲のカヴァーに島津亜矢も続いた形。そしてその内容がこれまた本当に素晴らしく。ブルージーに、渾身の力を振り絞って歌いきる。
ああ、そうだった。自分がこの方に魅せられたのは、この、歌における見事な演技力、テレビで披露していた歌謡浪曲のカヴァーがきっかけだったのだと、ここに来て改めて。
元来が普通に歌える曲ではないと常々思ってはいたのですが、それにしても島津亜矢の歌いっぷりに対して見事としか言いようがないのもまた事実。この曲を聴いてしまったら他の収録曲は余力で歌っているのではないとまで思えてくるのだから、本当に恐ろしいお方ですよ。
同着1位で白眉だと感じたのが中島みゆきのカヴァー「歌姫」。これまた演技技巧派な歌唱で静かに迫り、ぐっと泣かせてくれる。夜中にアルコールを入れながらこれを聴いたら、本当に声を上げてダクダクと泣いてしまうだろう。オリジナルの中島みゆきとは全く異なるベクトルであっても、ここまで泣かせにかかるのは、島津亜矢が歌における言霊を持つ人である方であるからだろうか。
総じて。徹頭徹尾歌い手であることに終始し、そのプロフェッショナルぶりに感服させられることしばし。やはりこの方にとって「歌怪獣」の二つ名は正しいものであるなと。
以下、蛇足。
島津亜矢という歌い手がどこまでこのカヴァーシリーズに力を入れているか、その実がよく分かるサイトはこちら。何の変哲のないアルバム紹介ページに見えますが、通常の演歌歌手のサイトでは特定のシリーズだけを独立させた作りにはそう滅多にしないのです。大抵リリース順に全アルバムを羅列するだけ。
www.shimazu-aya-koenkai.com
しかし改めてこうやって眺めると、本当に歌ったりも歌ったり、ですな。今後もまだまだ枚数を重ねていくのでしょうな。もちろん私はそこに大いに期待しているのであります。