羽毛に身体を支えられたかのような柔らかな音。耳が蕩けていく。
弓を必要以上に鋭く切り返すようなこともなく、かといってなまくらな音には陥らず、ソフトに音を斬り込んでいく印象。チェロが全身で歌っていることが十分に伝わってくる。音の一つ一つに生気が宿っていることで、バッハの楽譜が見えてくるような雰囲気まで漂う。
ミルシテインのヴァイオリンでも感じたことではあるけれども、演奏に歴史あり、変遷あり、そして今がある。過去の名演が黴びるなどと言うことは一切ない。
現代のリマスタ技術は本当に素晴らしく、60年近くも前、当時に作られ、記録された音が輝きを持って今に届けられる。このような時代にかつての名演に触れることが出来ることは、実は贅沢この上ないことであり、また、新しくクラシックの道に入った身からすると僥倖とすべきなのだろう。