青春探訪記。どこまで掘り下げる気だ。いや、どこまででも掘り下げられるのかもしれない。
そこで小林建樹。ここまで聴いてきた流れで、最も痛みの極みにある作品ではないだろうか。
自分の青春期は当時の愛車を抜きにしては語ることが出来ない。夜、とにかくあてもなく車を走らせては夜が明けるまで走り続けた。
帰宅して眠りに就き、仕事とも言えないような仕事をやっつけ、そしてまた車を出す。完全なる昼夜逆転。このあたりから自分の睡眠は不安定になり続け、今に至る。
その夜を走る愛車の中で、よく、一人聴いていたのがこの作品。したがって、この作品には夜のイメージがつきまとう。それもあてどない夜。
自己万能感と将来像を描けない自分への不安と怖れ。その両極端を往き来しては振り子の揺れにやられてしまう日々、時間を繰り返していた。
今から見れば単純に不安定だっただけの話で、そこまで自分に溺れなくてもよいだろうとも思えるが、それでも溺れていた自分は必死で水面から顔を出そうとあがいていた。不安定という恐怖と甘露をないまぜにした感情に揺さぶられ続けた日々の記憶。それは不定形であり、今でもすくってもこぼれてしまう水のような話。
そう。そのような暗い記憶ばかりがよみがえってしまう、それだけの引力を持った作品。